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広島高等裁判所 昭和39年(行コ)1号 判決

下関市今浦町二二番地

控訴人

石本文三こと 元環憲

右訴訟代理人弁護士

弘重定一

同市後田町

被控訴人

下関税務署長

藤井才一

右指定代理人検事

村重慶一

大蔵事務官 渡辺岩雄

同 浅田和男

法務事務官 池田博美

右当事者間の昭和三九年(行コ)第一号贈与税審査決定取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり、判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の控訴人に対する昭和三五年一月一一日付昭和三三年度贈与税及び同無申告加算税賦課決定(昭和三五年一〇月一九日付広島国税局長がした審査決定により贈与税額二八二万六一〇〇円同無申告加算税額七〇万六五〇〇円と変更されたもの)を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同趣旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次の点を付加訂正する外は、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人は

一、控訴人はその父元一錫に代つて本件東陽館の土地建物を買受けることになり、昭和三三年九月一三日岡崎信与から右不動産を代金一〇八〇万円で買受けた外、客室用の什器備品を代金一五〇万円で買受けるとともに、岡崎が右建物を他に賃貸して受領していた敷金六九万円の返還債務をも引受けた。

二、ところが右不動産について、岡崎が株式会社九州相互銀行に根抵当権を設定した上、計金八〇四万六六〇〇円を借受けていたので、本件商談に同銀行及び下関信用金庫も加わり、同金庫が右銀行に対し金八〇四万六六〇〇円を支払つて右抵当権付債権を譲受け、控訴人父子がその債務を引受け連帯して支払うこととした。

三、前記什器備品については、引渡を受ける際になつて、数量が著しく減少していたので、控訴人はその受額を拒み、結局その父元一錫が代金を金八〇万円に減額を受け控訴人に代つて買取つたものである。したがつて東陽館買受代金は本件土地建物の代金一〇八〇万円として計算されるべきものである。

四、そして代金一〇八〇万円の支払は、前記金庫支払分金八〇四万六六〇〇円に昭和三三年九月二一日の金四五万三四〇〇円、同年一〇月六日振出の金額一〇〇万円及び五〇万円の約束手形二通の各支払並びに元一錫支払の手附金一〇〇万円の充当により完済した(右手附金については控訴人と元一錫間で清算することになる。)

五、尚被控訴人は元一錫の信用金庫からの借受金を問題とするが、同人は信用金庫から融資を受けて、昭和三二年九月中金一〇〇万円、同年一二月中金五五〇万円を株式会社丸高商事に貸付け、その返金を信用金庫に預金(名義は石本元一又は太田一郎とした。)し、次いで右五五〇万円を村上造船所に対する中古船代金の支払に充て、昭和三三年九月二二日岡崎久子に対し喫茶店営業権と特殊備品の代金三〇〇万円を支払つており、これらがその頃の同人の主な支出であり、右借入金を本件売買代金の支払に充てたことはない。

と述べ

被控訴代理人は、本件不動産につき売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記をした日(原判決中事実第四、三、(一)(3))を昭和三三年一一月一三日と訂正する。控訴人の前掲主張事実については、従来の被控訴人の主張に反する部分は否認する。と答え、証拠関係として、控訴代理人が甲第一三号証の一、二第一四ないし第一六号証を提出し、当審証人金洵熙、元一錫(第一、二回)の各証言及び当審での控訴人の本人尋問の結果を援用し、乙第二〇、二一号証の成立を認め、被控訴代理人は乙第二〇、二一号証を提出し、当審証人石田金之助の証言を援用し、甲第一三号証の一、二第一六号証の成立は知らないが、第一五号証の成立は認める、と述べた。

理由

一、被控訴人が控訴人に対し、控訴人がその申告書を期限内に提出しなかつたとして、相続税法第三五条第二項(当時の法条による。)に従い、控訴人主張の課税処分(広島国税局長による変更処分を含む。)をしたことは当事者間に争いがない。

二、控訴人が昭和三三年九月一六日頃岡崎から原判決別紙目録記載の物件全部を一旦買受けたことは当事者間に争いなく、控訴人はその後同目録中の什器備品の受領を拒み、その父元一錫が控訴人に代つて買受けることとなつた旨主張し、原審での証人元一錫の証言にはこれに符合する部分があるが、後記認定のような買受の事情からするとき信用しがたく、他に右事実を認めるに足る証拠はない。

三、本件の主要な争点は、右売買代金の支払に関し、元一錫から控訴人に相続税法所定の贈与があつたか否かにあるので、以下順次検討することとする。

1  右代金として(一)昭和三三年九月一三日に金一〇〇万円、(二)同月一九日に金八〇四万六六〇〇円、(三)同月二一日に金四五万三四〇〇円、(四)同年一〇月六日に金一五〇万円が各支払われ、更に右不動産の所有権移転登記手続費用として同年九月一八日金六一万一一四五円が支払われたことは当事者間に争がない。

2  右(一)の支払金及び登記手続費用が元一錫の訴外下関信用金庫からの借受金及びその同金庫に対する普通予金の払戻金によつて支払われたこと、(二)(三)の支払金は控訴人と元一錫が同年九月一九日額面金二五〇万円と金六〇〇万円との約束手形二通を右金庫に共同振出して融資を受け(借主については争がある。)た金によるもので、(四)の支払は右両名が同年一〇月六日岡崎に宛てて振出した額面金一〇〇万円及び金五〇万円の約束手形二通(共に満期は同年一二月五日、支払場所は下関信用金庫)によりなされたことも当事者間に争がない。

3  各成立に争いない乙第四号証の五、第一八号証によれば、下関信用金庫は昭和三三年九月頃まで控訴人とは殆んど関係はなかつたが、控訴人家を主宰し右金庫と取引のある元一錫の申出により、その頃控訴人も取引の相手方とすることに決したこと、前記四通の手形による融資については元一錫と控訴人とを連帯債務者としたが、帳簿上は元一錫に対する手形貸付として記帳整理し、昭和三五年七月一一日元一錫が内金九〇〇万円を支払つていることが認められる。

4  2以下認定の事実に原判決認定の本件物件を買入れるにいたつた経緯、買受後の管理状況および本件贈与税調査にあたり係官に対し控訴人父子間に貸借関係を証する書類は存在しないといつて呈示しなかつた事実を総合すると、控訴人は少くとも前記1(一)の金一〇〇万円、3に記載の金九〇〇万円合計金一〇〇〇万円の範囲で本件買受物件の対価を支払わず、元一錫の支出によりこれを取得したものとして、その間に右金額だけ相続税法第九条にいわゆるみなし贈与を受けたものというべきである。

5  控訴人は、前記1の(二)ないし(四)に関する借受金の借主は、控訴人だけであり、1の(一)及び登記手続費用は立替を受けている旨主張し、証人元一錫の原審での証言及び当審での控訴人本人尋問の結果はこれに符合し、或いは前記認定に反する部分があるが、いずれも前掲証拠に比較するとき信用しがたい。

なお、控訴人が本件不動産につき元一錫のため売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記をしていること、昭和三五年五月一四日下関信用金庫に対する債務につき元一錫を連帯債務者から連帯保証人に改める旨の公正証書を作成する等したことは当事者間に争ないが、前者の事実が前記認定をくつがえすに足りないことについては原判決の当該理由を援用し、また後者は本件課税処分後のことであつて、これも前記認定を左右するに足りない。

四、そして右贈与があるに拘わらず控訴人が所定期間内に申告書を提出していない(この点は当事者間に争がない。)ことから、被控訴人が三1記載の計金一〇〇〇万円の範囲内である金六六一万一一四五円の贈与があつたとし、これに相続税法の関係条項(第二一条ノ四、五、第五三条第二項)を適用した税額(数額の点は算数上明確である。)による本件賦課決定は正当なものである。

五、したがつて、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものであるから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三宅芳郎 裁判官 辻川利正 裁判官 裾分一立)

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